労働者派遣事業の「許可申請」手続き
労働者を派遣する事業は原則として行うことができません。「できない」ことを法的に行おうとするには、特例的に「許可」を受けることになります。
一方、許可を受けたのちに一般的に行うことは「届出」という行為になります。許可された時から軽微な事項について変更があった場合(役員の変更、名称の変更など)が典型的な届出の例となります。「許可」と「届出」はレベル感が全く違うので留意してください。
許可を受けるためには、必要とされるすべての要件に適合していることを立証した申請書(提出様式+添付書類)を提出するところから始まります。
以下、労働者派遣事業の許可を受けるために必要なことについて、提出様式と添付書類から見たチェックポイントを説明いたします。
【参考】
- 厚生労働省HP「労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-」
- 厚生労働省HP「労働者派遣事業関係業務取扱要領」

申請から許可までの流れ
- 許可申請書の提出先は、本社所在地の労働局になります。本社では労働者派遣事業を行わず、他の都道府県にある事業者のみが労働者派遣事業を行う場合も同じです。
- 許可がされるのは、最短でも許可申請書が受理された月の3か月後になります。
例えば、1月中に申請書が受理された場合、2月にその労働局で書類審査や事業所への実地調査が行われ、3月に東京の厚生労働本省で審査や労働政策審議会への諮問がなされます。労働政策審議会による厚生労働大臣への諮問決定により答申がなされ、許可・不許可の決定がされます。
提出様式
労働者派遣事業許可申請書(様式第1号)
気にされている方は少ないのかもしれませんが、冒頭に2つの誓約事項が記載されています。
- 申請者(役員を含む)については、欠格事由に該当しないこと、精神の機能の障害により欠格事由に該当するおそれがある場合には該当する全ての者の精神の機能の障害に関する医師の診断書が添付されていることを誓約します。
- 派遣元責任者については、欠格事由に該当しないこと、未成年者に該当しないこと、過去3年以内に派遣元責任者講習を修了していること、精神の機能の障害により欠格事由に該当するおそれがある場合には該当する全ての者の精神の機能の障害に関する医師の診断書が添付されていることを誓約します。
なお、偽りその他不正の行為により新規許可や更新許可を受けた者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することが定められています。(労働者派遣法第59条第3号)
虚偽申請にならないよう、十分に気をつけてください。
- 申請者欄への押印や捨て印は不要になっています。
欠格事由の詳細はこちらを参照してください。 労働者派遣事業における欠格事由
労働者派遣事業計画書(様式第3号)
- 複数事業所を同時に申請する場合、事業所ごとに作成する必要があります。
- 様式第3号に記載する内容は、1.計画事業所の概要 2.労働者派遣計画 となります。
キャリア形成支援制度に関する計画書(様式第3号-2) / キャリアアップに資する教育訓練(整理用シート)
- 複数事業所を同時に申請する場合、事業所ごとに作成する必要があります。
- 「キャリアアップに資する教育訓練(整理用シート)」は、様式第3号-2「4 キャリアアップに資する教育訓練」の内容を詳細に説明したものになります。
派遣元事業主が、派遣労働者のキャリア形成を支援するためにどのように制度を構築するのかについて、審査(もちろん運営も)にあたり とても重要視されていることがわかります。この計画書は、労働者派遣事業を行う上でのキモになる書類です。 - キャリアアップに資する教育訓練の実施状況については、毎年6月中に提出する「労働者派遣事業報告書(年度報告、6月1日現在の状況報告)」において年間の実施実績を報告することになります。(労働者派遣法第23条第1項)

添付書類
定款(or 寄付行為)/ 法人登記簿(履歴事項全部証明書)
- 定款や法人登記簿の目的欄に「労働者派遣事業」があるかを確認してください。
- 法人登記簿の目的欄には「労働者派遣事業」があるものの定款を書換えていない場合は、(旧)定款とともに目的欄の変更を決議した株主総会の議事録を添付してください。
- 目的欄に労働者派遣事業を行うことができない事業(港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療関係業務など)が含まれる場合、別途申立書の提出が必要となることがあります。
- 法人登記簿に記載されている代表取締役の住所に変更がないか(添付書類に含まれる住民票や履歴書の住所と同一であるか)確認をしておいてください。
役員の住民票 / 役員の履歴書
役員の住民票
役員住民票を入手するにあたっては、次の事項に注意してください。
- 本籍地の記載のあるもの
- 個人番号(マイナンバー)の記載がないもの
- 中長期在留者にあっては、住民票の写し(国籍及び在留資格の記載があるもの)
- 特別永住者にあっては、住民票の写し(国籍及び特別永住者である旨の記載があるもの)
なお、法人の「役員」とは、次に掲げる役職をいいます。
- 株式会社 :代表取締役、取締役、監査役(監査役設置会社の場合)、会計参与(会計参与設置会社の場合)、執行役(委員会設置会社の場合)
- 有限会社 :代表取締役、取締役、監査役(監査役を置いた場合)
- 合名会社及び合同会社:総社員(定款をもって業務を執行する社員を定めた場合は当該社員)
- 合資会社 :総無限責任社員(定款をもって業務を執行する無限責任社員を定めた場合は当該無限責任社員)
- 財団法人及び社団法人:代表理事、理事、監事
役員が外国人である場合、原則として、入管法別表第一の二の表の「高度専門職第一号ハ」「高度専門職第二号」「経営・管理」、別表第二の表のいずれかの在留資格を有する者、又は資格外活動の許可を受けて派遣元事業主としての活動を行う者でなければいけません。
なお、海外に在留する派遣元事業主については、この限りではありません。
役員の履歴書
- 履歴書(役員)のサンプルはこちらから
【出典】厚生労働省HP「労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-」 - 履歴書には「氏名」、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「職歴」、「賞罰の有無」を記入してください。
- 「賞罰の有無」は安易に「無」としてはいけません。「役員が欠格事由に該当していない」という宣言になりますから、きちんと欠格事由を確認したうえで「無」とするべきです。【→ 欠格事由の詳細はこちらを参照】
なお、「賞」については審査の対象となりません(加点はありません)。 - 「職歴」は入社・退社の年月、役員の就任・退任の年月を明記し、空白期間のないように(求職活動中、法人設立準備、専業主婦など)記入してください。
- 近年の法改正で、申請者が行政機関に提出する書類について、原則として押印が不要になりました。
しかし、履歴書への押印の要否は、労働者派遣事業の申請を行う会社それぞれが判断することになります。すなわち、役員が欠格事由に該当したことにより不許可になった(=申請書類(履歴書の「賞罰」)について「虚偽記載」があった)場合、その役員に対する責任をどのように追及するのか、という問題になります。

派遣元責任者の住民票 / 派遣元責任者の履歴書 / 派遣元責任者講習の受講証明書
- 派遣元責任者は、派遣労働者からの苦情処理を行う場合に日帰りで往復できることが条件となります。
- 派遣元責任者は、その事業所に専属(常勤)である必要があります。したがって、事業所へ毎日通勤ができないような距離の場所に住所地がある場合、派遣元責任者として認められません(別途、居所があれば認められます)。
- また、その事業所に専属であることが求められるため、別の会社で勤務をしていたりや事業主として兼業をしている人も派遣元責任者として認められません。特に他社で常勤役員(代表取締役を含む)になっている人を派遣元責任者にしようとする場合は要注意です。
派遣元責任者の住民票
派遣元責任者の住民票を入手するにあたっては、次の事項に注意してください。
- 本籍地の記載のあるもの
- 個人番号(マイナンバー)の記載がないもの
- 中長期在留者にあっては、住民票の写し(国籍及び在留資格の記載があるもの)
- 特別永住者にあっては、住民票の写し(国籍及び特別永住者である旨の記載があるもの)
- 役員が兼務する場合は不要です。「役員の住民票」と同じものになるからです。
派遣元責任者が外国人である場合、原則として、入管法別表第一の一及び二の表、別表第二の表のいずれかの在留資格を有していなければいけません。「留学」「家族滞在」などの非就労資格や「特定活動」では(当然のことながら)派遣元責任者になることはできません。
派遣元責任者の履歴書
- 履歴書(派遣元責任者)のサンプルはこちらから
【出典】厚生労働省HP「労働者派遣事業を適正に実施するために-許可・更新等手続マニュアル-」 - 履歴書には「氏名」、「生年月日」、「現住所」、「最終学歴」、「職歴」、「賞罰の有無」を記入してください。
- 「職歴」は入社・退社の年月、雇用管理の経験(他社の経験も含めて3年以上)などを明記し、空白期間のないように(求職活動中、法人設立準備、専業主婦など)記入してください。
- 近年の法改正で、申請者が行政機関に提出する書類について、原則として押印が不要になりました。
しかし、履歴書への押印の要否は、労働者派遣事業の申請を行う会社それぞれが判断することになります。すなわち、派遣元責任者の履歴について「虚偽記載」があった場合、その派遣元責任者の候補者に対する責任をどのように追及するのか、という問題になります。 - 役員が兼務する場合、(派遣責任者としての提出は)不要です。ただし、「役員の履歴書」には、「雇用管理の経験」など派遣元責任者独自の記載事項についても記載が必要になります。
派遣元責任者講習の受講証明書
- 許可申請日前3年以内に受講したものが必要です。

最近の事業年度における決算関係書類
労働者派遣事業の許可を受けるには、一定の財産が必要となります。財産的基礎の判断方法については、以下のページをご覧ください 労働者派遣事業を行うにあたって必要な財産の条件
法人税の納税証明書(その2所得金額用)
- その2の証明は、法人の場合、法人税に係る所得金額の証明になります。納税証明書の交付請求は手続きはこちらのページをご覧ください。
- 会社設立後 最初の決算期に係る確定申告書を税務署へ提出していない法人(決算日から2か月後の確定申告期限が未到来)の場合は不要です。
法人税の確定申告書(別表1、別表4)
- 別表1は税務署の受付印のあるものを用意してください。
電子申告の場合は、国税電子申告・納税システム(e-Tax)から受信した「受け付けた内容」が確認できるものを併せて用意してください。 - 会社設立後 最初の決算期に係る確定申告書を税務署へ提出していない法人(決算日から2か月後の確定申告期限が未到来)の場合は不要です。
貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書
- 法人税の確定申告書に添付した貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書を提出します。この貸借対照表を使い、財産的基礎の判断を行います。
- 会社設立後 最初の決算期に係る確定申告書を税務署へ提出していない法人の場合、成立の日における貸借対照表(会社法第435条第1項など)を使い、財産的基礎の判断を行います。

事業所施設に関する書類
- 事業所の面積は、20平方メートル以上であることが必須です。
- 個人情報保護の観点から、他の法人(グループ会社を含む)と同じ部屋を使っている場合は原則として事業所として認められません。
- 代表者個人の住宅の一室などを使う場合も、原則として事業所として認められません。
提出書類
- 申請者の所有する建物の場合:建物(「土地」ではありません)の登記事項証明書
- 他人の所有する建物の場合 :建物の賃貸借契約書
賃貸借の目的が「事業用」などになっていることが必要です。 - 転貸借をする場合:原契約書、転貸借契約書、原契約における貸主(建物の所有者)による転貸借の承諾書
例えば、代表者が個人で借りた物件を法人として使用する場合、グループ会社が借りている物件を別会社である申請者が借りる場合などが該当します。
各種規程
就業規則(or 労働契約書)
- 教育訓練の受講時間を労働時間として扱い、相当する賃金を支払うことを原則とする取扱いを規定した部分
- 無期雇用派遣労働者を労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇しないことを証する書類。また有期雇用派遣労働者についても、労働者派遣契約終了時に労働契約が存続している派遣労働者については、労働者派遣契約の終了のみを理由として解雇しないことを証する書類。労働者派遣契約の終了に関する事項、変更に関する事項及び解雇に関する事項について規定した部分
- 無期雇用派遣労働者又は有期雇用派遣労働者であるが労働雇用契約期間内に労働者派遣契約が終了した者について、次の派遣先を見つけられない等、使用者の責に帰すべき事由により休業させた場合には、労働基準法第26条に基づく手当を支払うことを規定した部分

個人情報適正管理規程
オリジナルで作る方法もありますが、公表されている規程例を使うケースが大半になります。
- 規程のサンプルはこちらから
キャリア形成マニュアル
オリジナルでマニュアルを作る方法もありますが、公表されているマニュアル例を使うケースが大半になります。
- マニュアルのサンプルはこちらから
自己チェックシート(様式第15号)
「はい」「いいえ」方式でチェックをします。あくまでも自己チェックという位置づけです。

手数料など
登録免許税
新規許可申請をする場合は、登録免許税として9万円が必要です。(更新の申請の場合は不要です。)
労働者派遣を行う事業所が複数であっても、登録免許税の金額は変わりません。
銀行や郵便局で納付した領収証書を申請書類とともに労働局へ提出します。なお、納付書は労働局へ事前相談に行った際、入手することもできます。
収入印紙
手数料相当として、収入印紙が必要になります。
新規許可申請をする場合、労働者派遣を行う事業所が1か所であれば12万円になります。複数の事業所で労働者派遣を行うのであれば、追加事業所1か所あたり5万5千円が加算されます。つまり、2か所であれば12万円+5万5千円=17万5千円、3か所であれば12万円+(5万5千円×2)=23万円の印紙が必要ということです。
印紙は申請書を提出の段階で貼ることになります。

その他準備しておくとよい書類
事務所レイアウト図
許可申請にあたり必ず提出を要する位置づけの書類ではありませんが、労働局からは申請書提出時に同時提出を求められます。実地調査によって初めて事業所施設の要件を満たしていなかったことが判明することを回避するためにも、事前相談(遅くとも申請書提出時)の段階であらかじめ提出しておくとよい方がスムーズに審査が進みます。
実地調査で確認すること
究極的には「事業所の要件をきちんと満たしているか」「事業所としての実態があるか」ということの確認になります。具体的には以下のようなことを確認します。
- 必要とされる面積(20平方メートル以上)が確保されているか
- 会社の入口に看板があるか、他の会社などと事業所が混在していないか
- 派遣元責任者や職務代行者の座席はあるか
- 個人情報をきちんと管理することができる鍵付きの書棚はあるか