日本貨物検数協会(日興サービス)事件 ~みなし申込みに対する労働者の承諾を認めず~
令和2年7月20日/名古屋地方裁判所(平成29年(ワ)5158号)
令和3年10月12日/名古屋高等裁判所(令和2年(ネ)551号)
最高裁上告中
目次
どのような事件ですか
事案の概要
- 業務委託契約の注文主である日本貨物検数協会(日検)は、検数作業を委託された日興サービスの従業員に対して直接作業工程の指揮命令をしていたのであるから偽装請負等である、日検は労働者派遣法に規定する日興サービス従業員へ直接雇用の契約申込みがあったとみなされる、と原告の日興サービス従業員(16人)が主張。
- 日興サービス従業員は、日検からの直接雇用契約の申込みについて、いずれも期限内に承諾の意思を示したので直接の雇用契約が成立しており、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。
裁判の結果
- 1審の名古屋地方裁判所、2審の名古屋高等裁判所とも、日検の偽装請負等を認め、日検から労働者に対して労働契約の申込みがあったものとみなした。
- しかし、労働者側が承諾の意思を表示したのは期限である「違法派遣の解消から1年」を経過した後であったため、労働契約(直接雇用)の成立はしなかったと判断した。
何について争われたのですか
実際のスキームは、日検から指揮命令がなされた偽装請負等の状態であったか
原告(日興サービス従業員)の主張
- 業務の遂行に関する指示など
原告の日興サービス従業員は、日検従業員と同じ業務を担当していた。また、業務面でわからないことは日検従業員に質問や確認をしており、自社(日興サービス)から業務指示を受けたことはない。 - 労働時間に関する指示など
原告の日興サービス従業員は、日検から始業時間や業務内容の指示を受けており、また、時間外労働についても日検から指示を受けていた一方で、自社(日興サービス)からこれらの指示を受けたことはない。 - 企業における秩序の維持、確保のための指示など
日検は、原告の日興サービス従業員に対して身分証明書を発行してその携行を義務付けている。また、日検のロゴの入った制服を日興サービス従業員に支給し、業務規律の注意や配置の決定も日検が行っていた。 - 日興サービスの日検からの独立性
請負先(受託先)である日興サービスは、自社の従業員に対して業務処理のための資金の調達・支弁を行っておらず、事業主としての責任も一切負っていない。 - よって、これらは業務委託契約ではなく、日興サービスを派遣元、日検を派遣先とする労働者派遣であり、偽装請負等の状態であった。
裁判所の判断
原告の主張をすべて認め、指揮命令関係にあったのは日興サービスではなく日検であり、偽装請負等の状態であったと判断した。
なお、「東リ事件」や「ハンプテイ商会事件」とは異なり、指揮命令関係の判断に厚生労働省が発出している告示(「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号))を直接使用していない。
業務委託としたことについて、労働者派遣法などの規定を免れる目的(脱法目的)があったか
裁判所の判断
労働者派遣法など法の規定を「免れる目的」があったので「偽装請負等」であった。また、善意無過失とも認められないので、日検から日興サービス従業員に直接雇用の申込みがあったとみなされると判断した。
- 日検が行う検数業務は公正に行う必要があることから、港湾運送事業法に基づき許可を得て行われている。つまり業務は熟練した者でなければ行うことができないので、派遣可能期間が3年間に制限されている労働者派遣のスキームを回避したと考えられる。
- また、偽装請負等の状態は約10年も継続しており、労働法令の規定を免れる目的があったといえる。
- 高裁では、「偽装請負等の状態である場合、それが法規定の適用を免れる目的ではないという直接的証拠がなくても(逸脱目的があったと)推認することができる」としている。
- なお、裁判所は併せて「善意無過失」であったとも認めていない。
原告(日興サービス従業員)は、日検からの労働契約みなし申込みの承諾をし、直接雇用の契約が成立したのか
原告主張
- 原告は、労働組合の要求事項として従来より日検との直接雇用を求めていた。よって、期限内にみなし申込みを承諾する意思表示をしていたといえる。
- なお、日興サービスと日検は、日興サービスの従業員には周知することなく労働者派遣契約(正常な形)に移行している。
しかし、派遣従業員として派遣先に赴くには労働者派遣法に定める手続きが必要であるにもかかわらず行っていないので、日検は信義則に反して労働契約の成立を否定することができない。
裁判所の判断
原告の日興サービス従業員は、日検からの労働契約(みなし)申込みに対して、期限内に承諾をしたとはいえない。よって、直接雇用は成立しない。
【理由】
- 労働者派遣法の趣旨は、違法派遣が行われた場合に直ちに直接雇用契約を成立させるものではなく、労働者が派遣元との従前の労働契約の維持と新たな労働契約の成立について選択権を与えたものである。よって、選択の結果、労働者の自由な意思により行った承諾の意思でなければならない。
- また、「労働契約申込み みなし制度」は、違法な労働派遣を是正することを目的としている。違法な労働者派遣を受け入れたものに対して民事的な制裁を科すことにより、法の規制の実効性を確保しようという趣旨から、違法派遣の解消により規制目的が達成されたにもかかわらず、さらに過重な民事的制裁を加える理由に乏しい。
判決文から読み取れるポイント
この裁判は最高裁に上告されているので、現時点ではまだ確定していません。
ただ、結果的に「労働契約みなし申込み」に対して労働者が承諾するための要件を厳しく捉えていると思われます。この点については、異なる意見も見受けられ、今後変更される可能性もあります。
なお、労働法令の適用を免れる目的(脱法目的)ついて、高裁では事業主に厳しい判断をしています。指揮命令関係があり偽装請負等の状態であることをもって直ちに脱法目的があるとは推認されない、としつつも、「脱法目的がないことをうかがわせる事情が一切存在しない場合」も脱法目的ありと推認することができるとしています。
今後、各事業主は外注先の指揮命令関係が違法な状態になっていないか、きちんと洗い出しをしておく必要があります。