竹中工務店事件 ~二重派遣は労働契約申込み みなし制度の対象にならない~

令和4年3月30日/大阪地方裁判所(令和1年(ワ)11796号)

どのような事件ですか

事案の概要

  • 原告の労働者は、日本キャリアが竹中工務店の100%子会社であるTAKから受託した設計業務を行うことを前提に、日本キャリアと労働契約を締結した。
  • 原告の労働者は、最初の1週間ほどはTAKの事務所で、その後は竹中工務店の事務所において業務を行った。その際、原告の労働者は竹中工務店の社員から直接指示を受けて業務を行うことになった。
  • 原告の労働者は、これらの業務形態が偽装請負であるとして大阪労働局へ申告、大阪労働局は調査の結果、職業安定法の「労働者供給事業の禁止」に該当すると判断して、竹中工務店とTAKに対して是正を指導した。
  • その後、人間関係の悪化により日本キャリアから労働契約を解消させられた原告の労働者は、偽装請負により「労働者派遣みなし申込み」が成立しているとして、竹中工務店とTAKに「申込みの承諾」通知をしたが、竹中工務店側は直接の労働契約成立を否定したため、原告の労働者は労働契約関係の存在と損害賠償を請求した。
  • なお、被告の竹中工務店側は、二重派遣は労働者派遣法が定める違法派遣に該当しないため、労働契約申込みみなし制度の対象とはならないと主張した。

裁判の結果

  • 一連のスキームは二重の業務委託形式がとられているが、実質的には二重の労働者供給(二重の派遣)である。
  • 労働者、日本キャリア、TAKの三者間スキームは、TAKから出されていた指示が注文者から出される仕事の内容と仕様を伝えるものにすぎず、作業方法や作業手順などは原告の労働者の裁量に委ねられていたことから、指揮命令ががあったとはいえず、偽装請負等の状態とはいえない。
    また、偽装請負等の構成要件として必要とされる脱法目的もなく、違法派遣とはいえない。
    よって労働契約申込みみなし制度の対象とはならない。
  • 労働者、TAK、竹中工務店の三者間スキームは、労働者と竹中工務店との間に指揮命令関係があるため、職業安定法で禁止する労働者供給に該当する。しかし、労働者派遣法で定める違法派遣には該当しないので、労働契約申込みみなし制度の対象とはならない。
  • なお、労働契約申込みみなし制度は、労働者派遣の定義に当てはまらない労働者供給にまで準用や類推することは予定されていない。

何について争われたのですか

二重派遣は 労働者派遣法で定める「労働契約申込み みなし制度」の対象となるか

 労働契約申込み みなし制度とは、労働者派遣や業務委託の実態が偽装請負などの違法派遣であった場合、その時点で、派遣先や請負・業務委託の発注者が労働者に対して、直接雇用の申込みをしたものとみなす制度です。
 労働者は、申込みを「みなされた」日から1年以内に承諾するとの意思表示をすることで、派遣先や請負・業務委託の発注者と直接雇用の契約が成立します。

 労働契約申込み みなし制度は、労働者派遣法の改正により、平成27年10月1日から施行されています。この制度が新たに設けられたのは、違法な派遣形態には派遣を受け入れた側にも責任があることから、受入先にも民事的な制裁を科すことにより、労働者派遣法による規制、つまり派遣労働者の保護の実効性を確保するという目的があります。

 従前から厚生労働省では、「労働契約申込みみなし制度について」(平成27年9月30日、職発0930第13号)通達において、二重派遣は労働者派遣法違反となるものではなく、職業安定法における(労働者供給事業の禁止)としていましたが、今回の裁判ではその内容に沿った結論になったといえます。

労働者供給事業の禁止とは

 労働基準法では、「何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」と「中間搾取の排除」が規定されています。
 これを受け、職業安定法では「労働者供給事業の禁止」が定められており、「労働者供給事業」の定義を次のように定めています。

「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする

 つまり、労働者派遣法を遵守していれば、労働者供給事業、すなわち「業として他人の就業に介入して利益を得て」いるとはしない、ということです。



判決文から読み取れるポイント

 労働基準法の「中間搾取の排除」に違反した場合、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされています。すなわち、「刑事罰を科す」ということです。
 また、職業安定法の「労働者供給事業の禁止」に違反した場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」と、こちらも「刑事罰を科す」とされています。
 ただ、いずれも刑事的な罰則は定められていますが、民事的なペナルティの定めはありません。

 一方、労働者派遣法違反による違法派遣では、「労働契約 申込みみなし制度」という重い民事的なペナルティが設けられましたが、この部分に限れば派遣先や請負・業務委託の発注者に対する刑事罰の定めはありません。

 今回の裁判所の判断は、確かに法律の条文をそのまま解釈したものといえます。
 ただ、違法な派遣であれば民事的なペナルティ(労働契約申込み みなし制度)があるのに、さらに複雑化した二重派遣にすれば民事的なペナルティから免れるというのは、労働者を保護するために作った法律の趣旨から考えると、なかなか納得しがたいものがあろうかと思います。