セクハラにより「懲戒解雇」になることも ≪令和のハラスメント裁判例≫

令和4年1月20日/東京地方裁判所(令和2年(ワ)17393号)

どのような事件ですか

事案の概要

  • 大学の教授が、教え子の学生に対するセクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント(学生が授業の履修を放棄せざるを得ない環境を作り出すこと)に対して5年間の准教授へ降格するとの懲戒処分を受けた。
  • 元・教授は、降格処分を不服として、処分が無効であると提訴した。
  • この裁判が進行している過程で、元・教授は被害を受けた学生に対して「被害学生が元・教授に仕組んだハニートラップっだったのではないか」と虚偽の申告により元・教授を陥れたのではないか、あるいは「大学が降格処分を維持すれば、被害学生が学会内で不利益を受ける恐れがある」と恫喝ともとれるメールを送った。
  • 大学は、一審判決で「降格の懲戒処分が有効」との判断が下されたことを機に、提訴後のメールの件も含めて元・教授を懲戒解雇とした。
  • 元・教授は、懲戒解雇を不服として、処分が無効であると提訴した。

裁判の結果

 大学が原告(元・教授)に対して行った懲戒解雇は有効である。

何について争われたのですか

セクハラ行為について二重に処分がされている

原告(元・教授)の主張

  • セクハラ行為については、教授から准教授への降格という処分がなされている。さらに解雇することは、同一の事案に対して2回以上懲戒処分を行うことになり、二重処罰の禁止に反する。

裁判所の判断

  • 同じ機会における一連の出来事であったとしても、事実行為は別のもの(降格は「深夜に一人暮らしの学生宅に入室し、朝まで滞在したこと」に対する処分、解雇は「被害学生の同意なく身体接触行為を行ったこと」による処分)であり、二重の処分にはならない。
  • 懲戒規程の「法人、大学の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」「素行不良で大学の秩序又は風紀を乱した場合」に該当する。

メールの内容は懲戒事由に該当しない

原告(元・教授)の主張

  • 問題となっているメールは、被害学生が大学院で孤立状態にあることを知った元・教授が、その状況の改善提案と話合いによる解決を求め、代理人弁護士と相談した上で作成して大学側代理人弁護士へ送付したものである。
    その内容も、「学生が虚偽の申し出をして元・教授を貶めた」と主張するものではなく、「憶測をめぐらす人間がいる」という話を聞いたと述べているに過ぎない。よって、被害学生の名誉を侵害するものではなく、また、学生や大学を恫喝するものではない。
  • メールの内容は、双方の代理人弁護士間で送受信されたものであり、被害学生に見られることは予定していない。また、実際、大学側も被害学生に文面を見せていないので、学生の名誉は害されていない。

裁判所の判断

  • メールに記載された
    「逆に、本件学生に対して批判の目を向ける大学院生も少なくなく、極端な場合、原告を陥れるために本件学生がしくんだハニートラップだったのではないかと、あらぬ憶測を巡らす人間さえいるように聞いています。」
    の部分は、噂という体裁をとってはいるものの、被害者の学生が事実でないハラスメントの申立てをしたと示唆するものであって、被害学生の名誉を傷つける内容である。
  • また、
    「将来本件学生が頑張って学問で頭角を現そうとした際に、誰かがやっかみ半分で、このことを蒸し返す可能性は極めて濃厚です。
    彼女が頑張れば頑張るほど、その危惧は強くなります。噂の真偽とは無関係に、学界内で本件学生に『先生を陥れた人間』という過激なレッテルが貼られることになりかねないわけですから、就職その他の将来に対して、甚大な悪影響を与えることになりましょう。
    研究人生における深刻な足かせです。しかし、それは本件学生が特に望んでもいなかった大学側の処分断行の、いわば『代償』であり、実に罪作りな話しにほかなりません。」
    の部分は、被害学生の申立てに対応して、教授から准教授への降格(懲戒処分)をした大学を非難し、自身の行為の責任を大学に負わせようとするものである。
    また、大学は教育機関であり、学生の修学環境が害されないよう意を払うべき立場にあるところ、被害学生の不利益を理由に、学生を交えての話合いを実現しようとする内容は「恫喝」である。
  • よって、懲戒規程の「素行不良で大学の秩序又は風紀を乱した場合」に該当する。
    (メールの内容が被害学生をはじめ外部の者に対して開示されていないので、「法人、大学の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」には該当しない。)

判決文から読み取れるポイント

 さすがにセクハラだけでは(普通解雇はともかく)懲戒解雇は非常に困難だと思います。
 ただ、この事案については、当初の降格処分に関する裁判が継続している最中に送られたメール(厳密には原告代理人弁護士から被告代理人弁護士に送られたメールで、被害学生は目にしていない)の内容があまりにも卑劣であったため、併せ技の懲戒解雇が認められたということです。

 降格の処分の際、大学側は被害学生の心情も考慮して、外見的にも明らかな事実をもって懲戒処分(降格)を行ったのですが、その後の裁判でさらに深い部分が事実として認定されたことにより解雇処分となりました。
 このような経緯もあるため、裁判所は「同じ機会における一連の出来事であったとしても、事実行為は別のもの」として二重処分に該当しないと判断したようです。

なお、教授から准教授への降格処分に関する裁判は以下のとおりです。
1審 東京地方裁判所(平成31年1月24日/平成29年(ワ)第28144号))原告の請求を棄却(降格処分は有効)
2審 東京高等裁判所(令和元年6月26日/平成31年(ネ)第669号)控訴棄却(降格処分は有効)
上告 最高裁判所(令和2年2月13日)上告棄却決定及び上告不受理決定(高裁判決が確定)

※懲戒解雇処分は1審判決後の平成31年3月22日付