ベルコ事件 ~無許可事業主からの派遣労働者受入れにより、みなし申込みが成立~
令和4年2月25日/札幌地方裁判所(平成29年(ワ)1325号)
目次
どのような事件ですか
事案の概要
- 冠婚葬祭会社のベルコから営業について委託を受けていた営業代理店の社員が、営業地域で葬儀が行われる際にはその葬儀に立ち会っていた。
- 葬儀会館はベルコが別途契約した委託先であったが、葬儀施行業務について原告の営業代理店社員もベルコから直接指揮命令を受けて労働に従事していた。
- 葬儀施行業務は違法に労働者派遣がなされており、ベルコに対して直接雇用を妨げるといった不法行為に基づく損害金の請求を行った。
裁判の結果
- 違法派遣を認め、ベルコが原告(営業代理店社員)に対して労働契約の申込みがあったものとみなした。
- しかし、労働者側が承諾の意思を表示したのは期限である「違法派遣の解消から1年」を経過した後であったため、労働契約(直接雇用)の成立は否定した。
- なお、裁判所は、労働契約申込み みなし制度が適用される違法派遣の5類型のうち、「⑤ いわゆる偽装請負等」ではなく、「② 無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること」に該当するとして違法派遣を認めている。(⑤の構成要件である「脱法目的」には触れられていない。)
何について争われたのですか
実際のスキームは、ベルコから指揮命令がなされた違法派遣の状態であったか
違法派遣の5類型のうち、⑤の偽装請負等の状態にあったかどうかについては、厚生労働省から公表されている「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」に当てはめて判断を行った結果、「営業代理店は自己の雇用する原告らを他人のために葬儀施行業務に係る労働に従事させたものであり、かかる従事は労働者派遣に該当する」としています。
以下は、この当てはめに基づいて裁判所が判断した結果です。
自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであるか
営業代理店は、原告(営業代理店社員)に対し、葬儀施行業務における各種の指示・管理を自ら行っていたとはいえず、原告(営業代理店社員)の労働力を自ら直接利用していたとはいえない。
営業代理店が、自ら業務の遂行に関する指示等を行っていたか
営業代理店は原告(営業代理店社員)に対して葬儀施行業務に従事することしか指示しておらず、営業代理店自らが業務の遂行に関する指示等は行っていない。
(理由)
- 実際の葬儀施行の場では、葬儀会館である葬儀施行会社の従業員が原告(営業代理店社員)に個別具体的な指示をしていた。
- 原告(営業代理店社員)の葬儀施行業務の成果については、ベルコにおいて就労するチェッカーが確認することとされていて、原告(営業代理店社員)らは、葬儀施行後、ベルコから実施内容の確認を受けていた。
営業代理店が、自ら労働時間等に関する指示その他の管理を行っていたか
原告(営業代理店社員)は、葬儀施行業務に従事するに際しては、営業代理店から労働時間等に関する具体的な指示・管理を受けておらず、その労務管理からは離脱した状態にあった。
(理由)
- 営業代理店は、原告(営業代理店社員)が葬儀施行終了後に作成する出勤簿を通じ、出退勤の事実を事後的に把握するにとどまっており、葬儀施行業務において、社員の始業時刻、終業時刻、休憩時間、労働時間の延長等について具体的な指示や管理をすることはなかった。
- 原告(営業代理店社員)が葬儀施行業務に従事する際、葬儀会館に直行し、葬儀施行業務を行った後、そのまま自宅に直帰している。
営業代理店は、社員のタイムカードを作成していないなど、他に労働時間を管理する手段も講じていなかった。
営業代理店が、自ら企業秩序の維持・確保ための指示・管理を行っていたか
営業代理店は、葬儀施行業務において、原告(営業代理店社員)の服務上の規律に関する決定や指示を自ら行っていたものとはいえない。
(理由)
- 葬祭施行業務に従事に際して、原告(営業代理店社員)に葬祭施設で制服を着用したり、配布されたGPS付き携帯電話の電源を常時入れておいたりするよう求められていた。
- これらを決定したのはベルコであり、ベルコが営業代理店を通じて原告(営業代理店社員)に伝達していた。
請負契約により請け負った業務を自己の業務として、契約の相手方から独立して処理するものであるか
営業代理店が、ベルコから委託を受けた葬儀施行業務を、自己の業務として、ベルコから独立して処理していたとはいえない。
営業代理店が、業務の処理に要する資金をすべて自らの責任の下に調達し・支弁していたか
営業代理店は、葬儀施行業務の処理に要する資金のすべてを自らの責任の下に調達し、支弁したものとは認められない。
(理由)
- 原告(営業代理店社員)は、葬儀施行業務の従事回数に応じて施行手当を受領していたが、この施行手当はベルコがその原資を拠出していた。
営業代理店は、自己の責任と負担で準備・調達した物品を用いて業務を処理したり、自らの専門的な技術・経験に基づいて業務を処理していたか
営業代理店は、自己の責任と負担で準備・調達した物品を用いて葬儀施行業務を処理していたということはできない。
(理由)
- 原告(営業代理店社員)は、葬祭施設では制服の着用が義務付けられていたが、その制服代の半額をベルコが負担すると申し出ていた。
- ベルコは、GPS付き携帯電話を営業代理店に貸与し、原告(営業代理店社員)に配布していた。
ベルコに労働法令等の適用を免れるという目的があって偽装請負を行っていたのか
判決文では何ら触れられていません。
原告(営業代理店社員)は、ベルコからの労働契約みなし申込みの承諾をし、直接雇用の契約が成立したのか
原告の主張
- 原告(営業代理店社員)は、ベルコのみなし申込みに対して承諾をしたので、ベルコとの間で労働契約が成立している。
裁判所の判断
原告(営業代理店社員)が、ベルコからの労働契約みなし申込みに対して期限内に承諾をしたとはいえない。よって、直接雇用は成立しない。
(理由)
- 原告側がみなし申込みに対して「承諾」したとするものは、労働組合を介してベルコに提出した平成29年1月25日付「時間外等手当支払い要求書」を指している。
しかし、これは、労働組合員に未払割増賃金を支払うよう概括的に求めたものにすぎず、ベルコが労働者派遣法40条の6第1項に基づいてみなし申込みを行ったものである、あるいは、みなし申込みが成立していることを前提にこれを承諾するとの記載もなく、概括的に、時間外労働に係る割増賃金の支払を求めるにとどまるものであり、承諾の意思表示とみることができない。 - 原告(営業代理店社員)が、みなし申込みの主張をしたのは、令和元年5月10日付の裁判における準備書面が初めてであって、その準備書面の作成よりも前の時点において、原告が、みなし申込みが成立しており、その承諾についての選択権をベルコによって妨げられていることを認識していたとまでは認められない。
判決文から読み取れるポイント
この判決には、以下の2つの特長があります。
- 違法派遣とする根拠を、厚生労働省から公表されている「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」に当てはめて判断を試みた(⑤偽装請負等に該当するかどうか)にもかかわらず、⑤の構成要件となる「労働法令の規定の適用を免れる目的がある(脱法目的)」の有無を検討することなく、ベルコが「②無許可事業主(営業代理店)からの労働者派遣の役務の提供を受けたこと」を理由として違法派遣としていること
違法派遣の5類型のうち、「⑤いわゆる偽装請負等」のみに脱法目的が必要とされています。
①~④に脱法目的が設けられていないのは、これらは違反の事実が比較的明らかであるのに対して、⑤は指揮命令関係の有無の判断が実務上容易ではないことから、厚生労働省では、わざわざ行政解釈としての告示を発出しています。
この判決の考え方であれば、そもそも⑤の規定を設ける必要が無くなってしまうことになり、個人的にはとても違和感を持っています。
なお、一般的に②は、派遣会社と名乗る者と派遣契約を締結して労働者を受け入れていたが、実はその名乗る者は労働者派遣事業の許可を受けた者ではなかった(無許可事業主)ことなどが想定されます。派遣先も、厚生労働省から公表されている許可事業者などを調べればすぐに無許可業者であることがわかるため、受入側の脱法目的の有無は不要と考えられています。 - 原告の営業代理店社員は、ベルコが別途委託契約をしている葬儀会館の従業員から葬儀施行の指示を受けていたにもかかわらず、顧客との葬儀施行契約の当事者はベルコであることをもって、ベルコが「営業代理店から労働者派遣の役務の提供を受けていた」と認定したこと
判決文の随所に、葬儀会館の従業員から指揮命令を受けていたことが出てきます。結局、ベルコに脱法目的があったとはいえないための論理構成だとは思いますが、別の委託先が行った指揮命令にも発注業者(ベルコ)に責任を負わせるのであれば、もう少し丁寧な事実認定が必要なのではないかと、この点でも個人的にはとても違和感を持っています。