未払残業代の遡求期間は法改正により3年分に延びています

 2020(令和2)年4月1日から改正民法が施行されています。この中で消滅時効に関する部分は、民法の特別法に位置する労働基準法も連動して改正された箇所がありますので注意が必要です。

消滅時効に関する民法の改正

 まず、民法の消滅時効についての考え方です。

 従来の「原則の」消滅時効は10年でした。「原則」は10年でしたが、それ以外にも「例外の」時効期間が多く設定されており非常に複雑な法体系になっていました。そこで今回の改正ではほぼすべての債権について「知った時から5年」、ただし、そもそも債権の発生を知らなかったケースもありますので、その際は「権利を行使することだできる時から10年」という考え方を原則にしました。

 お金を借りた場合、通常はいつ返済しなければいけないのか約束(契約)を決めて知っているはずですから、ざっくり言うと原則の時効期間は10年から5年に短縮されたということです。

労働基準法の考え方

旧 労働基準法の規定

 先ほど「例外の」時効期間が多くあり非常に複雑になっていました、と申しましたが、旧民法の中に1年で時効になる「短期消滅時効」という考え方もありました。

 例えば賃金債権も、その「例外」債権に当たります。

 具体例を挙げます。
 会社を辞めた後で「未払残業代がある」と会社へ請求することができるのは、民法の時効の考え方によれば旧法では「過去1年分」だけということでした。しかし、従来、民法の特別法である労働基準法は、労働者を保護するために消滅時効の期間を2年に「延長」していたため、未払残業代の請求は「過去2年分」が認められてきました。

改正 労働基準法の規定

 本来の考え方であれば、賃金請求権の消滅時効期間も改正民法と同様に5年に延長されることになります。しかし、いろいろな大人の事情により当分の間は消滅時効3年ということで決着がついたようです。

 先ほどの未払残業代の請求を例にすると、今までは「過去2年分」だったものが「過去3年分」、つまり今までの1.5倍の請求ができることになったわけです。
 ただ、原則(民法)は5年間遡れるはずなのに、労働者を守るはずの労働基準法がわざわざ「しばらくの間は3年分で勘弁してあげる」ということなので、違和感はかなり残ります。

付加金制度の対象となる違反

 付加金制度の対象となるのは、以下の規定に関する違反です。

  1. 解雇予告手当(労基法第20条第1項)
  2. 休業手当(労基法第26条) 
  3. 割増賃金(労基法第37条)
  4. 年次有給休暇中の賃金(労基法第39条第9項) 

 なお、賃金請求期間が従来より延びるため、連動して賃金台帳などの帳簿関係も保存期間が5年(当分の間は3年)に延長されています。
 また、割増賃金未払い等に係る付加金の請求期間についても、賃金請求権の消滅時効期間と同様に5年に延長されています。

 労働基準法では、各種記録を原則3年間保存する義務がありましたが、今回の改正により5年間の保存に延長されています。ただし当面の間は3年に短縮されているので、結局のところ実務上は今までと同じということになります。

 法附則において、「改正法の施行5年経過後の状況を勘案して再度検討をして必要があるときは措置を講じる」とされていますが、さてどうなることでしょうか。

 なお、賃金請求権に関して、今回の改正で消滅時効の起算点が客観的起算点(賃金支払日)であることを明確化しています。
 こちらも特に今までとは変わることはないと思われますが、改正トピックスの一つになります。

詳細は厚生労働省のHP
→ 改正労働基準法等に関するQ&A
→ 改正内容のリーフレット

リーフレット